大阪地方裁判所 平成9年(ワ)3872号 判決 1997年9月17日
主文
一 被告白山開発株式会社は原告に対し、金六五〇万円及びこれに対する平成九年三月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告と被告株式会社福徳銀行との間で、原告が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
主文と同旨
第二 原告の被告株式会社福徳銀行(以下「被告福徳銀行」という。)に対する請求について
原告は別紙のとおり請求原因を述べ、被告福徳銀行はこれをすべて認めると述べた。
よって、原告の福徳銀行に対する請求は理由がある。
第三 原告の被告白山開発株式会社(以下「被告白山開発」という。)に対する請求について
一 事案の概要
1 争いのない事実
(一) 訴外金力俊正(以下「金力」という。)は平成八年六月二八日午前一〇時、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、同時に弁護士松本勉が破産管財人となった。
(二) 被告白山開発はゴルフ場の経営、ゴルフ用品の販売等を目的とする株式会社であり、左記ゴルフ場を経営している。
三重県一志郡白山町川口六二六二
白山ヴィレッジゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフ倶楽部」という。)
(三) 金力は昭和六三年八月一〇日、被告白山開発の経営する本件ゴルフ倶楽部に入会し(以下「本件入会契約」という。)、同時に入会金六五〇万円を預託金として支払い、これにより同ゴルフ場の利用権を取得した。
(四) 本件入会契約により金力が利用料を支払い、本件ゴルフ場の施設を利用したり、本件ゴルフ倶楽部主催の競技に参加したりすることができる権利を持ち、一方ゴルフ場は加入者に対して利用料の請求を行う権利を有する双務契約関係に立っている。
原告は破産法五九条一項の規定により、右双務契約の解除の意思表示を平成九年三月一九日に行い、併せて預託金六五〇万円の返還を求めたが、被告白山開発はこれに応じない。
2 争点
本件入会契約に破産法五九条が適用されるか。
3 原告の主張
金力は被告白山開発に対して入会金を支払い、さらに預託金を預託することによって被告白山開発との関係で正会員の地位に立つことになり、以下のとおり継続的な双務契約関係に入る。金力は被告白山開発に対して、本件ゴルフ場施設を特別料金で優先的に利用することができる。本件ゴルフ場において行われる諸催しに優先して参加できる。ヴィジターを同伴してプレーができる。一方、金力は被告白山開発に対し、預託金については一五年間返還請求せず、無利息で預託し続ける。被告白山開発が定める本件ゴルフ倶楽部の諸施設の利用料金を異議なく認め、使用の都度支払う。同伴ヴィジターについての支払債務は連帯して責任を負う等の義務を負担する。そして、被告白山開発と金力の右債務は将来も継続することが予定されている以上、金力に対する破産宣告の当時、ともにその履行が完了していないというべきであり、原告において、本件入会契約を解除することができる。
4 被告白山開発の主張について
(一) 金力は本件入会契約上の債務を全て履行しており、同人には未履行の債務は存在していない。すなわち、金力は昭和六三年八月一〇日に入会金及び預託金支払債務を履行し、任意の時期に本件ゴルフ場施設を優先して利用する権利および一五年経過後の任意の時期に右保証金の返還及び退会を請求する権利を有するに至った。そして、被告白山開発は金力が前者の権利を行使すべく本件ゴルフ場に来た際には右施設を優先的に利用できるよう人的及び物的施設を完備しておく義務はすでに履行している。後者の権利に対応する被告白山開発の義務は金力のその権利行使がなされなければ現実化するものではない。加えて、本件入会契約においては会員らに年会費等の費用の支払いを求める定めがなく、金力には年会費納入債務はないから、本件入会契約上の債務は既に履行が完了している。従って本件入会契約について、破産法五九条の適用の余地はない。
(二) 本件入会契約及び本件ゴルフ倶楽部会則ないし約款においては、会員の個別経済的事由などによる随時の預託金返還は認められておらず、そうでないと倶楽部全体の維持運営に重大な支障を来すことになる。このことは会員が破産したときにおいても何ら変わるものではなく、破産したからといって他の会員に先駆けて満期未到来の有利な保証金返還を得ることは本件入会契約の趣旨に反しており、破産法五九条に基づく解除は無効である。
二 判断
1 甲第三号証及び乙第三号証の一によると、以下の事実が認められる。
本件ゴルフ場の正会員になろうとする者は預託金六五〇万円及び入会金一五〇万円を支払うことによって、本件ゴルフ場施設を特別料金で優先的に利用することができる権利、本件ゴルフ場において行われる諸催しに優先して参加できる権利及びヴィジターを同伴してプレーができる権利を取得し、他方で、預託金については一五年間返還請求せず、無利息で預託し続ける義務、被告白山開発が定める本件倶楽部施設の利用料金を異議なく認め、使用の都度支払う義務、同伴ヴィジターについての支払債務は連帯して責任を負う等の義務を負担することとなる。なお、正会員においてその後年会費の支払義務はない。
2 争点に対する判断
右事実よれば、被告白山開発の一五年間預託金を使用収益に供しうる権利は会員の優先的かつ特別料金で施設を利用する権利と互いに対価的な関係に立つものであり、この点からして、本件入会契約は双務契約であると考えられる。そして、預託金返還債務は期限付債務であって未履行であり、優先的かつ特別料金での施設利用債務は会員が随時その対応する権利を利用しうる状況にしておく債務であり、これも未履行と考えられる。従って、原告において、破産法五九条に基づいて本件入会契約を解除することができると考えられる。なお、被告白山開発は年会費の支払義務がないことで本件入会契約の履行は完了しているとの主張をしているが、左記に述べたとおり、対価的関係に立つのは預託金返還義務と施設を優先的かつ特別料金で利用する権利と考えられ、以上から被告白山開発の(一)の主張は理由がない。
また、会員が破産した場合、破産者及び破産財団が会員権を利用することは考えられないので、破産管財人としてはこれを換価するよりほかないが、売却価格が預託金の価格を大幅に下回る場合、これを売却すると破産管財人の責任問題が生じることとなり、預託金の返還を受けようとすれば破産管財人からの解除ができない限り、年会費未納でゴルフ場会社の方からの解除を求める方法が考えられるが、本件においては年会費の支払義務がないためその方法によることができないので、結局、預託金の据置期間の満了を待つしか方法がなく、破産手続が著しく遅延する。従って、双方未履行の双務契約において当事者の一方が破産した場合に当事者双方の公平な保護をはかりつつ破産手続の迅速な終結をはかるという破産法五九条一項の趣旨からすると、会員破産の場合に入会契約について同条を適用すべき合理的な理由があると考えられ、以上から、被告白山開発の(二)の主張は理由がない。
以上から、原告の被告白山開発に対する請求は理由がある。
(裁判官 今中秀雄)